増加する特殊車両申請を迅速に。国土交通省関東地方整備局が進める審査業務改革
業務のデジタル化を阻むのは多くの場合、リソースの制約や他施策との兼ね合い、やり切るノウハウといった、現実的な諸条件です。従来のアプローチで超えるのが難しかった、これらの壁を掘り崩す選択肢として今注目されつつあるのが、現場密着型の開発支援(FDE=Forward Deployed Engineer)です。
その活用は中央省庁にも広がっています。リーディングケースの現況を、国土交通省 関東地方整備局 道路部 交通対策課の定梶 圭 技官(特殊車両第二係)に伺いました。
(聞き手はライター・相馬 大輔)
増え続ける許可件数は年間57万件。足下の効率化はまったなし
―まず、ご担当業務についてお聞かせください。
国土交通省が所管する「特殊車両通行制度」について、関東1都8県エリアに関わる局内システムの運用を担当しています。
特殊車両通行制度は、社会経済上の需要があるものの道路へのダメージや交通への危険のおそれから原則通行不可とされる、重量・寸法が一定基準を超えた車両の通行手続きです。例えば、大型のトラックやトレーラー、車両運搬車、3軸以上のクレーン車などが概ね本制度の対象となります。
60年以上前から制度改正が繰り返されてきたことや、手続きの過程で道路を管理する自治体との協議が加わることもあり、審査事務を一貫したシステム化は、これまで十分進んでこなかったのが実情です。「申請書類を紙出力し、職員の目視とペンで不備がないかチェックする」といった、手間のかかる作業も残されています。
全国平均で一時50日前後まで達した「審査日数の長さ」が課題だったことから、2022年度からは、情報がシステム上に登録された道路だけを通って発着可能な場合の手続きがWebで即時完了する新制度(特殊車両通行確認制度)がスタートし、自動審査への移行を推進しているところです。ただ、いまだに従来からの制度(許可制度)の利用者のほうが多いという実態もあります。
特殊車両の許可件数は全国的に増加傾向が続き、2025年度は10年前の約2倍となる57万件を記録しました。ドライバー不足を補う車両の大型化などに伴い、今後さらなる増加も見込まれています。
こうした状況を受け、国土交通省では特殊車両通行許可の審査期間短縮に向けて、主に「道路情報便覧収録の推進」と「個別協議の削減」に取り組んでいます。具体的には、道路の幅員や構造物の情報がシステム上にない区間は手作業の照合が必要となるため、こうした区間を減らせるよう道路情報便覧への収録を推進しています。また、収録を効果的に促進するため、橋梁や交差点などの協議箇所のうち協議回数が多いものは重点的に収録を進めると同時に、道路管理者との個別協議の必要性を見直しています。
ただ、これらのアプローチは審査事務の多くを自動審査化し、審査期間縮減を目指す上で重要な取り組みではあるものの一朝一夕には実現できず、ある程度の時間を要します。また超大型車両など、真に個別判断が必要で、人手を要する審査事務は今後も一定数残ります。そうした事情を踏まえると、なお増え続ける申請件数に対し上記のアプローチだけで対応するのは、限界があると考えています。
そこで関東地方整備局では、許可制度の審査事務にあたって人手で行っている作業をIT技術等の活用により迅速化・効率化することで、審査期間の縮減を目指しています。

RPA内製で「運用」「業務分析」が壁に。現場密着型の支援を採用
―許可制度の審査事務の効率化にあたって、FDEを採用した経緯をうかがえますか。
局内システムの改修には費用も時間もかかります。そのため私たちはまず、パソコンのマウス・キーボードで処理している定型作業を自動実行に置き換えていくことで、スピードアップと省力化を図ることにしました。
手始めに、課内の職員がWindows標準搭載のRPAツールを使い、担当業務の一部をソフトウエアロボットに置き換える開発内製にチャレンジしました。本業の合間にRPAを一から勉強し、作業手順を書き出し整理してくれた担当者のおかげで、いくつかロボットを完成させ、試作レベルで成果は得られたものの、安定運用や継続的な改善体制の構築に課題が残りました。
その課題とは「接続先サイトのデザイン変更などがあるたび、ロボットの実行エラーを避ける修正対応をしなければならず、利用範囲を拡大できるか不安」というものです。
また、一連の審査事務の中から自動化できる工程を切り出す業務分析や、実装の優先順位の判断についても「自前で続けていくのは困難」というのが率直な印象でした。
こうした課題、困難を解決するには、
・より大きな効果が早く見込める作業から順次自動化という私たちの戦略を実現すべく、直接現場を見て、難易度も踏まえた“仕分け”をしてくれる専門家
・予測困難なエラーへの対応など、技術的な支援をすぐ得られる体制
が必要と考えました。
そこで、AIおよびRPAの導入実績が豊富なオープン株式会社のエンジニアに、現場密着型の開発支援を依頼することとなりました。
実装着手から5カ月で、審査業務の処理能力向上に成功
―ここまでの取り組みの経過をお聞かせください。
審査業務のどこを見直せば効率化につながるか、現場担当者へのヒアリングを含む検討作業を、私たちとFDEの間で、およそ半年間かけて実施しました。その結果、まず最終工程から実装を進めることとなり、許可証データの作成・交付に関するタスクを、RPAによる自動実行に置き換えました。

前工程の効率化に移った現在は、協議資料の作成、申請手数料データの登録、手数料の請求書作成といった作業の自動化を進めているところです。エラーの原因究明から解消、安定運用の実現まで、現場に密着したFDEの迅速な対応は、運用の安定化や課題解決に大きく貢献しています。
―現時点で、どのような成果が得られていますか。
1日あたりの処理件数が、自動化前に比べると格段に増加しました。実装に着手してから5カ月経過した時点で、部署内の人員配置はそのまま、審査業務の処理能力を向上させることができました。
副次的な効果として「手作業で生じがちなミスが減った」との声も多く聞かれています。これは、自動化した作業のミスがほぼゼロになるのに加え、自動化で得られた余力により、残る手作業のチェックも念入りにできるようになったためです。
ただ、私たちがいる関東地方整備局の本局(さいたま市中央区)が受け付けて処理する申請は全体の一部で、大半は管内10カ所の国道事務所が処理しています(本局の担当者は6名、各事務所で数名が対応)。そのため、詳細な処理件数を基準にした効果検証は、今後の自動化の展開をみながら進めていく計画です。
審査日数との関係では、短縮に向けた複数の施策を同時並行していることから、「審査事務の自動化」という単独要因の効果測定が難しい面もあります。協議の効率化をはじめとするプロセス各所の見直しとも連動しながら、着実に迅速化を図っていきたいと考えています。

本局の実績を管内10カ所に共有、効果の上積みを目指す
―今後予定されている展開についてもうかがえますか。
ここまでの取り組みで、
・FDEの知見を活用しながら、効果の高い自動化対象や実装手法を選定し
・自動処理に適した手順への見直しもFDEに随時提案してもらった上で
・制度運用上の問題がないかどうか、私たちがチェックし
・実装をFDEにお願いする
というサイクルが確立しました。そこで今後はここ本局のほか管内の国道事務所にも順次、同様の展開を広げていく計画です。
最初の展開先として、全国的にみても特に処理件数が多い東京国道事務所(東京都千代田区)を選び、令和8年度中に実装に入る方向で準備を進めているところです。
全国共通の制度に基づく審査業務も、実務上の運用では、地域の実情に応じた事務所ごとの違いがみられます。また、事務処理を委託している地元事業者の方々が持つ長年の経験に頼る部分も、いまだに少なくありません。
もし作業手順を完全に統一し、全く同じ仕組みを横展開できるなら、理論上は最速で自動化が実装できます。ただ、実際にそうすると各現場の実情と離れすぎ、思ったような成果が達成できなくなるかもしれません。
そのため私たちは自動化の拡大にあたって「本局に揃えてもらう」のではなく、「いくつかのパターンに集約した中から採り入れやすい手順を選んでもらう」といった柔軟な姿勢で標準化を進めたいと考えています。全国の道路行政がそろって直面している課題でもあり、再現性のあるモデルケースになることを願っています。
―最後に、FDEに対するここまでの評価、また今後提供を期待する技術や知見があればお聞かせください。
今回の成果は、ツール導入だけでなく、現場業務の理解にもとづく継続的な伴走支援があったからこそ実現できたものだと考えています。
単なるRPA開発ではなく、現場業務を分析し、どの工程をどう変えれば最も効果が高いか共に検討できたことが、FDE活用の大きな価値だったと感じています。
また、自動化によって担当者個人の経験や習熟度への依存が減ったこと、それにより異動や退職があっても業務を継続しやすい環境づくりにつながった点も評価しています。
長年の運用を経て、紙や手作業が残る行政業務は、特殊車両通行制度に限りません。現場担当者とエンジニアが伴走しながら改善を進める今回のようなアプローチは、他にもさまざまな行政分野で活用の可能性があると考えています。
今後への期待ですが、例えば許可制度の中でも、図面情報の入力作業や、車両通行可否を確認するための軌跡図作成など、自動化の余地がある業務はまだ数多く残されています。RPAを起爆剤に、AI-OCRやLLMなどの先端技術も活用しながら、そうした単純作業に職員が費やす時間を減らし、本来注力すべき審査判断や利用者対応により多くの時間を充てられる環境を実現していきたいですね。新たな選択肢の提案を、引き続き期待しています。

FDE INSIGHTS