「日本型FDEとは何か」オープン株式会社 FDE事業責任者に聞く

    デジタル活用が前提の業務プロセスにアップデートするDX(デジタルトランスフォーメーション)の道半ば、生成AIという破壊的技術にも向き合うこととなった日本の産業界。個人レベルのAI活用は急速に進む一方、組織の内外でDXを阻む壁はなお消えず、基幹業務やオペレーションへのAI導入も順調とは言い切れないのが実情でしょう。

    こうした状況の打開策として、オープン株式会社は米国で実績が相次ぐ「FDE(Forward Deployed Engineer)」にヒントを得た「日本型FDE」を提唱。このほどFDE事業部門を発足させました。10余年に及ぶRPAの普及などを通じ、一貫して現場主導のDXを支えてきた同社の次なる戦略を、事業責任者の武藤 駿輔(新規事業開発室 室長)が語りました。

    (聞き手はライター・相馬 大輔)

    DXの壁、PoC止まりのAI活用…。原因は「“やり切る人”の不在」

    ―「DXが物になる前に生成AIの波がやってきた。AI活用も含めて戦略を練り直しているが、決め手に欠ける」という組織は少なくないと思います。何が原因でしょうか。

    、「“やり切る人”の不在」が最も大きいと思います。

    「ITに強い社内人材がそもそも少ない」など、日本のDXにはいくつかの構造的な「壁」があり、個別のご事情も千差万別とは思います。ただいずれにしても個人の能力不足ではなく、「真正面から課題に向き合い、泥臭く解決にあたるポジションをうまく作れていなかった」という、仕組みの問題が本質とみています。

    当社はこれまで15年以上、RPAツール「BizRobo!」の提供などを通じて3,000社超のDXをご支援し、現場の課題と間近に向き合ってきました。そこでの経験から「DXもAI実装も、泥臭くやり切る人を現場に置けるかどうかが成否の分かれ目」と確信しています。

    ―現場主導型のDX支援を続けてきた立場から、AIにどんな可能性を感じますか。

    例えばRPAとLLM(大規模言語モデル)は、得意分野が異なります。LLMが新たに加わることで、一歩届かなかったDXの成果に届く、いわば「ミッシングピース」を埋める役割を期待しています。

    特に、情報をデジタルデータとして扱う下準備(非構造化データの構造化)では、LLMを活用した大量処理が実用化しつつあります。これによりRPAを含む自動化技術が、いよいよ本領を発揮できるようになったといえるでしょう。

    ―そうした可能性を引き出すためにも、現場に“やり切る人”が必須ということですね。

    その通りです。AI実装がPoC(概念実証)で止まり、なかなか実務に落とし込めない問題がクローズアップされていますが、

    業務プロセスを解きほぐし、AIとつながるよう再設計できる人がおらず止まる

    現場に身近な成功体験をつくり、変革の流れを作ることができずに止まる

    といったように、止まる理由がそのまま、やり切る人の必要性と、何をやり切るべきかを物語っています。

    汎用性が高く進化も著しいLLMに触れていると、「議事録自動作成」のような絵になる活用を、全社一斉に呼びかけたくなるものです。

    しかしそうしたアプローチは一時的に成功しても展開の過程で高額化しがちで、地道な仕込み(リテラシー教育、業務分析、データ・ガバナンスの整備など)が免除されるわけでもありません。のないAI実装がPoCでつまずくのは、当然の結果と言えるかもしれません。

    AI実装が組織として進まなければ、現場は今まで通りの業務プロセスのまま、上辺だけのAI活用を属人的に進めるようになります。検証コストの増大や信頼関係の毀損を招くおそれもあり、生産性向上にとって逆効果となりかねません。 個人の活用に追いつかない、組織のAI実装(調査結果)
    AI利用で増える “見掛け倒し”生産性と信頼を破壊(調査結果)

    そこで、もっと堅実で持続可能なデジタル戦略を考えたとき、有力なのが

    • やり切る人が現場に入り、泥臭く実装と改善を続ける
    • 小さく成果を出しながら、よりハイレベルな自動化への足がかりを築く

    という方法です。

    ―トップダウンのDXやAI実装が進まないから、やむなく他の方法をということですか。

    そうではありません。新たな試みがトップダウンで広がりにくいのは、むしろ「現場が根幹を担っている」という、日本が誇るべき強みの現れではないでしょうか。

    私自身、製造業や医療などさまざまな現場に伺うたび、業務の根幹を担う方々の実践知に敬意を抱かずにはいられません。そうした組織のありようを前提に、持ち前の強さが最も生きる「日本型」のアプローチを選ぶことが大切だと考えています。

    日本型FDEが「デジタル・ボトムアップ」を可能にする

    ―ではDX・AI実装をやり切る人を、現場にどう配置するのでしょう。

    米国Palantir社などが成果を上げている「FDE(Forward Deployed Engineer)」がヒントになると考えています。

    FDEとは、顧客の現場に常駐して状況・課題を理解し、自ら実装して課題を解決するエンジニアです。「ベンダーのサポート範囲外で内製の体制もなく、開発外注のスピードでは追いつかない」など、従来取り残されてきた領域に泥臭くコミットする点が特長とされています。

    例えば、あるPalantirの顧客は、既存システムに散在するデータをFDEが統合し、数千人に数十万件のタスクを割り当てる作業が数秒で可能となった結果、数千万ドルの経費節減を達成したといいます。

    ただ一方、米国におけるFDEの利用は経営戦略の一環であり、現場と協業してもトップダウンの変革を実現することが優先されます。日本でそっくり同じやり方をしても上手くいかないはずで、「日本型FDE」の再定義が必要と考えています。

    ―米国流を日本型に再定義すると、どうなりますか。

    FDEの本質部分である

    • エンジニアが現場常駐
    • 分析から実装まで担当
    • 課題解決に泥臭くコミット

    は受け継いだ上で、私たちは日本型FDEの要素として5つのポイントを想定しています。

    1. 「デジタル・ボトムアップ」の確立

    日本型FDEでは、トヨタ式の「カイゼン」にならった「デジタル・ボトムアップ」で、業務プロセスをブラッシュアップします。「三現主義」「3M」といった方法論を踏まえ、現場の現実をFDEが直視し、根本原因を突き止めて解決します。

    また、そうした実践で得られるノウハウ・データを社内資産にするお手伝いをするとともに、「ボトムアップを促すトップダウン」を経営層に働きかけます。

    2. ROIで意思決定しやすいスモールスタート

    PoCで止まらないよう、日本型FDEは意思決定しやすいプランを強く意識し、費用対効果を短期間で示す「スモールスタート」を徹底します。

    技術面ではAI活用ありきでなく、また特定ツールの導入を前提とせず、あらゆる選択肢から最適なものを採用します。

    3. 人員配置:「リスキリング型メンバーシップ」への転換

    メンバーシップ型の長期雇用が多い日本では、FDEによる生産性向上が不安を与えず、リスキリングと一体で安定雇用に貢献することが特に重要です。

    LLMの登場後、ITの世界はルールと価値観が劇的に変わりつつあります。当社内でもマインドセットの変化、スキルセットの進化を急いでいるところで、お客様と共に、新たなスキルを開発していく関係が作れると思います。

    4. 「委託/受託」から「共創」へ、パートナーシップを転換

    現場で実装を進めるにあたり、FDEは社内システムの仕様を把握する必要があります。日本の場合、その主要な相手方は開発運用を丸ごと受託している外部ベンダーで、円滑なコミュニケーションに工夫が求められます。

    そこで日本型FDEでは、ユーザー/ベンダーの「委託/受託」関係を「ユーザーのための戦略的パートナーシップ」と捉え直して橋渡しを担います。これにより、デジタル資産の社内活用という共通目標に向けた「共創」が可能になると考えています。

    5. レガシーを生かす、疎結合(コンポーザブル)なアーキテクチャー

    既存のシステムを作り替えることなく、中のデータを集めて統合するのがFDEの基本で、これは日本型でも同様です。レガシーシステムを活用しながら「データの民主化」を段階的に進め、最終的なサイロの解消を目指します。

    国内3,000社超の現場を知るオープンがやり切る「泥臭い実装」

    ―日本型FDEのコンセプトは分かりました。オープン株式会社がそれをやる理由、できる根拠についてはいかがですか。

    日本型FDEを提唱するより前から、私たちはお客様のFDE的な役割を担い、複数の現場で実践を重ねてきました。

    「病院の増収」「合併企業のオペレーション統合」など具体的な成果が現れだし、確かな手応えをつかんだことが、今回事業化に至った大きな理由です。

    多岐にわたる業界・業種の、現場のオペレーションに近い領域で3,000社超をご支援してきた実績から、当社は日本型FDEの分野で

    AI活用前提の業務オペレーションを、レガシーシステムを活用しながら再設計する

    業界特有の文化・作法を踏まえた「現実解」の実装

    外部パートナーとの連携を加速的な展開

    という、大きく3つの貢献ができると考えています。サービス設計としても、従来型の「技術を売る」「時間を売る」「知識を売る」形ではなく、お客様との間で合意する「KPIへの泥臭いコミットメント」を前提とした料金体系を考えています。

    さらに、私たちはリスキリングにも豊富な実績があります。ご支援先からメンバーを迎え、当社グループの業務で身に着いたデジタルスキルを持ち帰っていただく「逆出向」の試みは5年以上前から始まり、現在も拡大中です。

    個人的な感触ですが、DX推進のビジョンと現場の業務知識、経営の意思、ITの技術理解が既に出揃っており「あと束ねるだけ」という状態にある日本企業は、実は相当数にのぼる気がします。ここをぜひ、日本型FDEで形にできればと思います。

    小さく始め、成果を素早く横展開。ヒトの進化を共創する

    ―日本型FDEを今後本格展開する中で、直面する壁もあるはずです。そこへの対策と中長期の展望を、最後に聞かせてください。

    越えられない壁はないと信じていますが、お客様の現場・経営・ITそれぞれの立場で、FDEに対する心理的なハードルはあるかと思います。

    そこで私たちはFDEを、外から入って業務を再設計する「翻訳者」、成功体験を横展開する「架け橋」と位置づけ、メリットをご理解いただくところから始めるつもりです。その上で「定量効果を早く出す」姿勢や、「逆出向」のメニュー、「既存のシステムに直接触れない」実装などを組み合わせ、各所のハードルを解消したいと考えています。

    展望についてですが、まず本番実装の実績を重ね、社内研修も強化してFDEのを高めます。使用技術としてはAIツール群・クラウドインフラ・RPAのほか、中長期的には自律的に目標を達成するAIエージェントや、物理的なロボット(フィジカルAI)などの応用も視野に入れています。

    当社は「ヒトの進化を共創する」というミッションを掲げていますが、FDE事業においてもヒト中心を貫き、ヒトの能力の拡張に貢献したいと願っています。共創についても、さまざまな事業者様とパートナーシップを結びつつ、FDEの方法論を共有できるプラットフォームを確立したいですね。