今できることを、次に繋がる形で。足下から広げるFDE石川の行政DX
現場で自ら実装し、顧客の課題解決にコミットするFDE(Forward Deployed Engineer)。現場の業務効率化に貢献するRPA導入支援を長年手掛けてきたオープン株式会社は、このほど立ち上げたFDE事業に先立ち、多くの業界でFDE的な役割を担ってきました。
そのうち今回は、地方自治体の現場でDXに取り組む石川 耀子(Automation事業部 営業本部 第一事業推進部)に注目。行政に特有の制約を「できない理由」とせず、デジタル化を着実に前進させる実践論を聞きました。
(聞き手はライター・相馬 大輔)
「できない理由」を特定し、「できる範囲」でまず動く
―まず、石川さんの担当業務について教えてください。
行政事務の現場のデジタル化をお手伝いしています。自治体担当となって3年目の現在、業務のヒアリングや自動化の実装などを、全国の5つの市・区で行っています。個人情報を扱う関係でインターネットに接続していない環境も多く、基本的に毎回現地に滞在し、その場で対応しています。
技術面ではRPAを中心に、一部AI-OCRも採用しています。生成AIも今後活用したいと考えていますが、行政事務は型が決まった作業の割合が大きいので、定型作業の自動化に強いRPAの応用を、まず優先しているところです。紙の帳票類のデータをシステムに手入力しているケースでは、AI-OCRとRPAの連携で自動化する以外に、紙の利用そのものをやめられないか働きかけることもあります。
―オンライン化・ペーパーレス化・デジタル化と言われて久しいですが、紙を使う運用やデータの転記作業が今も残るのはなぜでしょうか。
私が直接見聞きしただけでも、さまざまな事情があります。
例えば、住民の方からWebフォームで受け付けた情報は、紙の申請書と違ってデジタルデータなので、あとは全部デジタルで処理できそうに思えます。しかし実際には、まだ紙を使っている自治体に揃えるためなのか、データ送付先や業務委託先の運用、あるいは所定のシステムや様式が紙を前提にしているケースがよくあります。やむを得ず、いったんデータを紙出力する作業が生じており、その自動化をお手伝いすることもあります。
「保管が必要なので」と、庁内からデジタルデータの紙出力を求められることもあります。紙で残す理由を伺うと、「ずっとそうしてきたから。決まりは特にありません」と想定外の回答をいただくこともあり、一つ一つ確かめながら改善の糸口を探っています。
行政事務では、さまざまなパッケージシステムが活用され、システム間のデータ連携も進んできました。しかしそれでも、Excelでの情報管理や転記のタスクが全てなくなるわけではありません。
例えば、「登録する金額を出す前工程がある」「事務の一部が外部委託で、進捗管理のため控えを残したい」といった場合、パッケージでは対応しきれません。Excelとの煩雑なやり取りが、どうしても残ります。
このように抜本的な対策が難しいケースでも事情をよく把握し、いま可能な範囲で、最も効果的な自動化に取り組んでいるところです。

「業務数」「削減時間」を指標に、負担軽減へ広くコミット
―自動化する業務の選定にも関わっていると思います。優先順位をどう決めていますか。
「AI-OCRが使えるから紙の作業を」といった技術面に偏らず、いま職員の方々の負担が重い部署で、実際に負担が減らせることを重視しています。
多くの自治体に共通する例としては、保護者が在宅する夜間の訪問で長時間労働となりやすい「子育て支援部署」へのサポートが挙げられます。日中も、窓口対応の合間にデータ入力をなさっていて、不規則に挟まる中断がミスを誘発するのですが、慎重に進めると今度は積み残しが生じ、夜間の訪問後さらに残業となりかねません。入力の自動化が、業務全体の最適化に大きく貢献するというパターンです。
―FDEは一定の裁量を持つのと引き換えに、KPIの達成にコミットします。実際のKPIはどのように決めていますか。
現場に入る工数をまず定め、その範囲内で「自動化する業務の数」や「自動化による目標削減時間」を決めることが多いです。
削減時間には、「他の作業に人を充てられるリソース創出効果」と「自動化に伴う処理時間の短縮効果」という、大きく2つの考え方があります。経験上、主要な指標に選ばれやすいのは、算定が容易な後者です。
処理時間という指標でみると、RPAによる自動実行は、入出力を数段階に分けて行うシステムとの間で待ち時間が累積して不利なこともあります。実装途中で長い待ち時間に気づいて焦ることもありますが(笑)、自動化の範囲を広げて削減時間の総量を増やすといった工夫をしながら、KPIの達成に努めています。
その上でリソース創出効果、つまり「作業が手離れした職員に時間的・精神的な余裕が生まれ、実質的に数値以上の効果を達成している」ことへのご説明をしています。
“Excel管理画面”でブラックボックスを回避。異動があっても自走できる仕組みを
―RPAによる自動化が「詳しい人任せ」「その場限り」にならない工夫もしているそうですね。
はい。RPA活用の始めやすさ、長期の安定運用、効果拡大につながる横展開を念頭に、「RPAそのものの作りは、極力シンプルにする」よう心がけています。
例えば、RPAで扱うファイルの名前や、接続先システムのID・パスワードなどはRPAツールに直接書き込まず、あえて「設定用のExcelファイル」で管理しています。このファイルは、情報入力や承認作業を人が行うシートと、ロボットの読み取り専用シートを分けており、ロボット専用シートは人が誤って書き換えてエラーを起こさないよう、非表示で保護するなどの工夫をしています。
一見地味かもしれませんが、ロボット単体で動かすのではなく、誰もが使い慣れたExcelを“管理画面”として挟むことで、次のようなメリットがそろって得られます。
- マニュアル通りExcelに入力するだけで、最低限の運用が回る
- RPAスキルが全員にない職場でも、定期異動時の引き継ぎが簡単にできる
- Excelファイルの設定を変えるだけで作業内容が近い他部署・他自治体に横展開でき、ロボットを作り変える必要がない
こうした工夫で現場にとっての「自動化のハードル」が大幅に下がり、DXを進めやすくなると考えています。

「内製でもできそう」という現場の声が喜び
―FDEの仕事で特に喜ばれるポイントや、やりがいを感じる瞬間がありますか。
自動化の効果については「事務の工数が削減でき、作業負担が減った」と定量面でご評価いただくのはもちろんですが、「ミスしがちな作業が減り、不安がなくなった」とのお声が、思った以上に多かったです。個人情報の取り扱いをはじめ、決してミスが許されない現場の心理的負担を、私たちのこういった活動で軽減できるのだと実感しました。
楽になった・不安が減ったと喜んでいただけるのも嬉しいですが、個人的に最も嬉しいのは、現場の方々に「RPAを内製して自分たちでも改善できそう」と言っていただけた時ですね。
自治体でのFDEは「自動化とは何か」の説明からスタートし、特に負担が重そうな業務のピックアップや詳細のヒアリング、効果予測を踏まえた実装にいたるまで、私たちが率先して動く時期がしばらく続きます。ただ導入が進み、職員の方々に浸透していくにつれ「この業務にも使えないか」「他課に勧められた、うちもやってほしい」という声を、少しずついただけるようになります。
実は私自身、アパレルという異業界から今の会社に飛び込みました。ITというものがよく分からない不安、苦手意識から遠ざけたくなる感覚を覚えているので、RPAならRPAをご理解いただける説明に努め、「できそう」「やってみたい」「周りにも勧めたい」と感じていただけたとき、DXの伴走者として大きな達成感があります。
―最後に、今後の展望についても聞かせてください。
例えば、住民からの申請の「受付」と「登録」は一続きの工程で、それぞれ有力なパッケージシステムがあります。ただ、人の確認作業が間に挟まることもあり、一連のワークフローとして効率化できる余地もまだ残されています。
こうしたケースで実装する自動化の仕組みには、特に高い汎用性が期待できます。そこで、ある自治体向けに開発したものを別の自治体にも積極的に採り入れ、自動化のペースを上げていきたいと考えています。
行政事務には自治体規模を問わず共通の内容が多く、人口減少が著しい小規模自治体のほうが、むしろ大胆に変革を進めている面もあります。いま私も、窓口のレイアウトから見直す小さな市町村の実証実験に加わっているところで、発想を思い切って変える必要性やメリットを、実例・実体験に即して広めていけたらと思います。
FDE INSIGHTS