「ポテンシャルも武器もある」。テクノロジーで病院経営の改善に挑むFDE藤山の情熱
現場に入って自ら実装しながら、顧客の課題解決に泥臭くコミットするFDE(Forward Deployed Engineer)を、このほど事業化したオープン株式会社。現場の業務効率化手法であるRPAの導入支援を長く手掛けてきたことから、実は既にFDE的な動きでも成果を上げています。
今回はそうしたメンバーの1人で、地域医療の現場で経営課題解決に取り組む藤山 洋平(Automation事業部 第五営業部 部長)にインタビュー。仕事内容やその成果、やりがいについて聞きました。
(聞き手はライター・相馬 大輔)

「RPAでタスク代替」から「RPA×AIによる収益改善」へ
―現在の担当業務を教えてください。
当社が札幌オフィスを開設した2019年以来、北海道エリアでRPAの導入支援を担当しています。並行して2024年から全国の医療機関の現場に入り、自動化プロセスを設計・実装するFDE的な取り組みを進めてきました。
―FDE的な取り組みのきっかけは何でしたか。
現場に赴く実装そのものは、HIS(病院情報システム)内でのRPA開発をお手伝いする手法として、2021年頃から実績がありました。
ここ2年ほどでお客様の課題解決まで深く関わるようになったのは、ある県の公立病院から「既に他社のRPAを活用しているが、まったく進んでいない。赤字も大きく、収益向上にターゲットを絞った業務改善をしたい」とご相談いただいたのがきっかけです。
さっそく支援に入り、当初は利用実態にふさわしいRPAツールに移行しながら定型的なタスクを自動化していましたが、1年も経たないうちに「非定型なタスクも含めた自動化が必要」ということで、それを可能にする生成AIとの併用が決まりました。
生成AIでは「膨大な診療記録をチェックし、特定条件に当てはまるケースを定型・非定型データ双方で全てピックアップする」など、今いる人員の手作業では到底不可能なデータ処理が簡単にできます。「医療現場の業務に応用すれば、通常の人の数十倍の生産性を叩き出し、結果として大幅な収益改善が狙える」と判断し、単なる業務代替にとどまらない収益向上を目的とした自動化を積極的に探るようになりました。
実際の必要に迫られ、その都度取り組んできたことが、結果としてどんどんFDE的になってきたという流れです。
―FDE的な取り組みでの使用技術は、RPAとAIですか。
はい。特にこだわっているわけではありませんが、人間用の操作画面をそのまま使って自動実行できるRPAと、データの整理に強いAIの組み合わせはとても実用的で、既に10数例の実績があります。
現在使っているAIツールはAnthropic社のClaudeを中心としており、個人情報を漏らさない・学習させないためにインフラ・ネットワーク設計から関与し、万全のプライバシー・セキュリティ環境を確保しています。直近のモデルは非常に優秀でハルシネーション(もっともらしい嘘)も少なく、多くの用途においてこれまで以上に顧客に貢献できるものを提供できていると評価しています。
わずか「2-3日」の開発が「年1,500万円増収」を実現
―病院の収益改善プロジェクトで、最大のターゲットは何でしょうか。
一般的な業務効率化では削減した作業時間を人件費換算しますが、今はもっとシンプルに「病院の収益に直接寄与すること」に力を入れています。
というのも、現在の日本において病院は、より良い医療を提供するために日々多忙を極めています。その結果多くの病院は「実際に行った医療行為に対し、しばしば請求の取りこぼしが生じている」状態で、約7割が赤字と言われています。そこで、まずはAIやRPAによる圧倒的な生産性によって収益を上げていくことに集中しています。
―具体的な成果を教えてください。
私が実装した2つのソリューションで、2025年に2病院の収益を合計5,000万円強改善しました。いずれも「できるのが理想だが、その現場が置かれた体制・人員で対応するのは到底不可能」という作業の多くをAIに代替させ、作業負担やコストは最小限に留めているので、ほぼ真水の利益増を達成したことになります。
このうち1つは、患者のカルテ記事や薬剤・検査オーダーを人間に代わって読むことで、最終的に「副傷病」を医師に提案する機能です。プロトタイプも含めて2-3日程度で大枠を構築し、年間1,500万円ほどの増収を実現しました。

もう1つは、診療報酬の加算対象である厚生労働省へのデータ提出を人間の代わりに行う機能です。カルテに記載された患者情報を整理し、指定のフォーマットにまとめる処理を、RPAとAIの組み合わせで実装しました。

事務長の要望を形に。タイトな現場の“目が輝く”自動化を
―医療界のIT活用にも長い歴史があるはずです。FDE的なアプローチが今、これほど成果を上げているのはなぜでしょう。
確かに医療現場では電子カルテや各種部門システムなど、様々なITツールの活用が当たり前です。しかし、いずれもバーティカル(細分化された縦割り)に構成された製品で、それぞれのデータがぶつ切りになっており、統合した処理が実装しにくかったというシステム環境の事情がまずあると思います。
さらに医療機関側の体制においても、システム関連の人員は組織全体との比率で圧倒的に少なく、既存のシステム環境の保守・運用で精一杯です。「日々の業務運用上、攻めのITの実装はとてもじゃないけど不可能に近い」というケースが大半でした。
システム関連以外でも、医療機関内の各職種から「年々人員採用が難しくなっている」との声が聞かれます。既にある業務を回すことで手一杯の中、ITツールの導入に伴って新たな業務を増やしたり、ましてや本来業務を妨げたりするようでは、当然定着しません。
そうした難題の数々に対し、AIを携えたエンジニアが現場に入り込み、人員によらなくとも業務を運用できる自動化プロセスという“現実解”を実装できるようになったのが、ちょうど今なのだと思います。
―実装で効果を実証すれば、現場からの期待もさらに高まりそうですね。
確かに、実装までやり切って成果を示せるのがFDEの価値だと思いますが、実体験としては、もっと早い段階でビビッドな反応が返ってくる印象です。確実な収益につながるプランが見えた瞬間、お客様の目が輝くんですよ(笑)。実効性のある現実解が待ち望まれていたのだと思います。
増収の実績を重ねて信頼いただき、より大きな宿題も頂戴するようになりました。ある療養型病院の事務長からは「療養の入院基本料が、病棟ごとにこんなに違う。なぜ違いが出るのか、各システムからより細かいデータを集約・可視化して突き止め、最終的には改善まで自動で回るようにしたい」とのご相談が直々にありました。現場の負担を極力増やさないソリューションの検討を進めているところで、上手くいけば同じ問題を抱える他院にも横展開できると考えています。

現場でやり切るDXから得られる成長実感
―仕事の中で藤山さんが感じるやりがいについても聞かせてください。
RPAに加えAIという武器が手に入り、単なる「既存業務の置き換え」で終わらない「本来あるべき姿」を目指せる機会が増えたことに、日々やりがいを感じています。
経営難による閉院が各地で相次ぐ現在、生産性や収益を改善することには「地域医療における空白を防ぐ」という社会的意義もあるかもしれません。ただ現場のエンジニアとしては「ユーザーさんと勝てる策をあれこれ構想し、最終的な結果にも責任を持ちながら実装までやり切れる」という、ダイレクトな手応えが何より大きいです。
実装にかかる工数と比較して、今のところ圧倒的な効果が出ていますが、常駐というスタイルは続けるうちに「何でも屋」に陥るリスクもあります。そこで「どれだけインパクトを残せるか」という緊張感を、絶えず持つようにしています。
ベンダーサイドとして重要なのは、同業他社の成功事例で得られた知見を自分なりに因数分解し、決してそのままではなく、その顧客に適合するよう取捨選択・再構成して採り入れるといった「外からの人」ならではの価値を提供し続けることだと思います。今後FDE事業が拡大していく中では、当社が蓄えたノウハウをもとに標準化したサービスメニューも増えていくはずです。
―FDEという働き方に興味がある人には、どんなことを伝えたいですか。
課題解決に向けた実装にあたっては、ヒアリングを通じて現状の作業内容、現場の人の動きを把握するだけでなく、浮かび上がってきたデータの流れを再構成する「翻訳者」的な役割が求められます。
現場の方々とお話する中で捉えた業務プロセスを一段階抽象化して検討する能力と、検討結果を具現化するための技術的素養を併せ持つ人が、FDEというポジションに向いているのではないでしょうか。
さらに言うと、お客様はある業種・業界の専門家であり、私たちエンジニアはそこに関しては素人です。知恵を持ち寄って意見交換しながら、お客様と一つのチームとして課題解決に臨めるコミュニケーション能力があればベストだと思います。
純粋に経験として、またエンジニアとしての市場価値の面からも、間違いなく成長を実感できるのがFDEというポジションです。私自身、外資系大手ベンダーで上流工程の経験もありますが、「直接手触りを感じられるこの分野・この会社に来てよかった」というのが率直な気持ちです。

理にかなった解決策で、公平な医療に貢献したい
―最後に、今後の展望を聞かせてください。
医療機関の経営改善に関してはポテンシャルも武器も揃っている状態なので、技術面をさらに掘り下げつつ、しっかりお客様を増やしていきたいと考えています。
当社のRPAツール「BizRobo!」を導入されている全国約260病院が最有力のターゲットですが、国内には病院だけで8,000施設、クリニックであれば10万施設あるとされています。地域医療を担いながらリソースを理由にテクノロジー活用をあきらめかけている、中小規模の医療機関に横展開でも届くソリューションを、FDEの実践を通じて構築したいです。 ITという専門を持ちながら、FDEは経営までを見渡す視点をお客様と共有し、改善に向けて深く誠実に、泥臭くコミットできるかどうかが成果に直結します。医療を取り巻く環境が厳しくなっている中、必要な医療が必要な人に適切に届く公平性を保つためにも、その実現を阻む不合理な状況を、現場に入ってひとつひとつ最適化していけたらと思います。
FDE INSIGHTS