流通業界で200業務を精査して実装。FDE石井がとらえた現場の“リアル”

    現場で自ら実装し、顧客の課題解決に泥臭くコミットするポジションとして注目されつつあるFDE(Forward Deployed Engineer)。FDE事業をこのほど立ち上げたオープン株式会社は、現場の業務を効率化するRPA導入支援を起点に、既にさまざまな業界の現場でFDE的な役割を担っています。
    そうした取り組みの中から、今回は流通業界の経営課題解決に取り組む石井 勇輔(Automation事業部 営業本部 第六営業部)にインタビュー。活発な合従連衡の背後で課題となっているオペレーションの統合・最適化に向けた取り組みや成果、手応えについて聞きました。

    (聞き手はライター・相馬 大輔)

    42部門の協力を得て流通業の現場をヒアリング

    ―現在の担当業務を教えてください。

    2023年に移住した福岡を拠点に、当社のエリア責任者を務めています。常時10数社のプロジェクトに伴走するのと並行で、2025年初頭からはある流通企業の業務効率化プロジェクトに加わっており、同年9月から実装を含めて常駐に近い形でお手伝いをしています。

    私が理系の大学院を修了後、当社に入った2021年はコロナ禍まっただ中で、配属当初はオンラインのカスタマーサクセスとして、全国各地のRPA導入企業を担当していました。やがて「お客様にもっと深くコミットし、企画から営業、コンサルティング、エンジニアリングまで一貫で手掛けたい」と感じるようになり、今のポジションに手を挙げました。

    FDEそのものを目指したわけではありませんが、課題解決の手応えを求めて選んできた働き方が、結果としてFDEに近づいてきたという感じです。

    ―流通企業での取り組みは、ざっくりどんなものですか。

    ご依頼いただいたチェーンストア本部のコスト削減担当部門を通じ、業務の簡素化・自動化に向けた取り組みを、全社的に進めているところです。

    柱となるのは、さまざまな現場でのヒアリングと業務分析、さらにその結果を踏まえた改善策の実行です。開始半年で42部門・200業務のヒアリングを終えたところで、自動化の実稼働も拡大中です。

    技術面では当初、ハイパーオートメーションによる組織全体の業務自動化も検討しましたが、今のところは即効的なRPAで要所をピンポイントに自動化しつつ、一部でAIも採り入れています。課題解決に向けた最善の手段を選ぶ方針なので、特定製品の導入を前提とはしていません。

    度重なるM&Aで業務が複雑化。デジタル実装を急ぐ本部に応える

    ―今回の依頼企業は、どんな課題を抱えていましたか。

    コスト削減担当部門からのご依頼だったこともあり、最大の課題は業務コストです。改善の方向性として「店舗の業務を整理・共通化し、できるだけ本社で巻き取りたい」「巻き取る本社側の業務もスリム化・自動化したい」とリクエストをいただきました。

    各店の店長をはじめとする現場サイドからも「スタッフが現場に集中できるよう、本社向けの業務は簡素化したい」「業務コスト削減に協力したいが、何に誰が何時間かけているか把握しきれておらず、まず可視化を手伝ってほしい」という声があったそうです。

    ―業務分析や改善提案は多くの企業が手掛けています。なぜ選ばれたと思いますか。

    「DXコンサルで終わらず、現場を見て、ただちに実装までしてほしい」とのご意向が、非常に強かったです。そのため、実際に現場で手を動かせる私たちが選ばれたのだと思います。

    内製でデジタル化が進まない理由として「情報システム部門は既存システムの安定稼働が最優先で、攻めのDXに専念できない」とよく言われますが、それは今回も同様でした。またお客様固有の事情として「グループ共通のシステムが多数あり、自社主導のシステム構築が難しいため、手作業を交えた転記が頻繁に生じている」という問題もありました。

    単に改善後のイメージを示すだけでは足りなかった理由としては、「度重なるM&Aで社内のオペレーションが複雑化していた」こともあると思います。

    流通業界では近年、生き残りをかけた経営統合が矢継ぎ早に繰り返されています。そのため合併から数年経てもなお、オペレーションが統合途上というケースは珍しくありません。本来あるはずのスケールメリットを最大限発揮する上で「まず現状把握から」となるのは、このお客様に限ったことではないように思います。

    今後オペレーションがどうあるべきか、正確な方向性を見出すためにも実態の洗い出しが必要でしたが、全社的な調査だけ先行させてしまうと成果が出るまで時間がかかり過ぎます。そこで手早く柔軟に実装可能なRPAを活用し、ヒアリングと同時並行で自動化を進めていく私たちのアプローチが、うまく「はまった」のだと思います。

    優先度を自ら判断、2,400万円相当の効果を実現へ

    ―改善のターゲットや順番を、どう決めていますか。

    まずヒアリングについては、強い改善要望のある現場や、業務改善に前向きな役職者がいる部署から順番に着手しました。プロジェクトの準備期間から現在まで1年あまりの間に、42部門・200業務について実施しています。

    ヒアリングを終えた後、実装する優先順位については、「必要な工数」「定量・定性両面のインパクトと波及効果」「現場からの協力の得られやすさ」を踏まえ、基本的に私の判断で決めています。コスト削減の根拠となる指標を意識するとともに、早期に成果を出すスモールスタートで信頼を獲得することと、中長期を見据えた戦略的取り組みの両立を心がけています。

    単発で大きな効果が得られる実装以外に、小粒ながら横展開で効果を伸ばせる自動化もあります。多くの部署で内容が共通する業務はその典型で、「店舗と本部間の経費処理」「店舗間の在庫移動」「売価やリベートの設定」などが候補となります。具体的にどの業務を、どう自動化すれば横展開できるかは、さまざまな現場でヒアリングを重ねる中で初めて見えてくるというのが実感です。

    ―個別の実装で実現した成果として、どのようなものがありますか。

    店舗で処理していた小粒な業務を自動化し、本部側に巻き取った例として「釣り銭データの処理」があります。

    今回のお客様の会計システムは、各店舗の営業終了後に回収された現金額が記録される警備会社のシステムと連携しておらず、従来は店長が毎朝双方のシステムにアクセスし、手作業で転記していました。1回あたり数分とはいえ、全店舗の労力を人件費換算すると月間70万円以上にのぼっていたタスクです。

    本部で一括して転記を実行するようにし、異常があるときだけ店舗側に通知する完全自動処理の仕組みをRPAで実装しましたが、私1人が1日で完成させてテスト運用に入り、1カ月で本稼働を達成しています。

    この事例を含め、自動化による削減時間は定期的に集計しており、既に稼働中の実装がもたらすコスト削減効果は、当社がお手伝いを始めて丸2年となる2027年2月までの累計で、およそ2,400万円相当(19,200時間相当の削減)となる見込みです。それまでに追加の実装も予定しており、実績はさらに上振れするでしょう。

    手早く効果が出せるRPAによる省力化のほか、従来手が回りきらなかった業務のサポートとしてAIの実装も進めています。

    例えば、よく店頭で掲示している「来店客の声に対する店長の回答」は、社内システムにも登録するのが本来の運用ですが、多忙な店長は書くだけで精一杯です。そこで先日実装したのが、文字認識・要約・分類から登録までAIが一気通貫で自動処理するソリューションです。追いつかないケースが大半だった登録率をほぼ100%にできる見通しで、リアルなニーズが本部に届きやすくなると期待しています。

    小刻みな対応を重ね、「試行錯誤を引き受ける」

    ―FDEは業務フローを再構築しますが、現場の念頭にあるのは従来のやり方です。要望を受けた内容そのままではなく、“翻訳”して応える場面もあるのではないですか。

    はい。特に常駐を始めてから1~2カ月の間は、伺ったお話の再定義や、DX文脈への翻訳に、ほぼ全ての時間を充てたように思います。

    担当業務の本質を深く理解されている現場の方々は、大抵「こうしたい」という改善のイメージを明確にお持ちです。ただ、それを体系化・抽象化する機会は少なく、本質的に同じことでも、場面ごとに異なる表現で語られることが多々あります。そのため、私たちのような“部外者”が伺うと「前と言っていることが違う」と誤解しがちです。

    認識をすり合わせることも大切ですが、あまり時間をかけていては現場の事情も変わってしまいます。RPAであれば構築も修正も柔軟にできるので、いったん小さく作ってみて、ご指摘があれば直す。そんな「試行錯誤を引き受ける」アプローチのほうがスムーズに進むことも多いですね。

    ―FDEというポジションで石井さんが感じるやりがいや、この仕事に向いているタイプについても聞かせてください。

    スーパーのバックヤードなど、生活に身近な施設の“舞台裏”に入ってお役に立てるのが、まず純粋に面白いです。「数百件の事務処理をさばくのに、月末3日間付きっきりだったのが丸ごと解放された」など、喜びの声を直接聞いて貢献を実感できることも、やりがいにつながっています。

    お客様の全体最適を意識したロードマップを持つのがエンジニアとして大切である一方、目の前の費用対効果を強く求められるのもビジネスとしての現実です。「今すぐ出せるファクト」を絶えず準備し、合意をいただきながら大きな目標達成を目指すバランス感覚も、FDEの醍醐味かもしれません。

    FDEに向いているタイプですが、技術を磨き、責任をもって実装するだけでなく、手持ちのスキルにとどまらない幅広いテクノロジーにも興味関心があれば、お客様の選択肢を広げられると思っています。

    現場の業務を深堀りしていくので、業務に携わる方々との関係構築も重要です。「自分が担当者だったらどうするか」と自分事にできる想像力や、伺った内容を自分なりの言葉にも置き換えられる柔軟さ、あとは「頼られると単純に嬉しい」タイプも、この仕事を楽しめるはずです。

    デジタル分野で「顧客の最初の相談相手」を目指す

    ―最後に、今後の展望を聞かせてください。

    FDEとして実装を重ねた実績を評価いただき、現在私は、お客様の経営会議に同席することもあります。

    提供する製品、サービスメニューもさることながら、DXのパートナーとしては信頼関係をベースに「あなたの会社にお願いしたい」と声がかかる関係が理想です。業務自動化全般で「最初の相談相手」になりたい。そこに少しずつ近づけているのかなと思います。

    実際「FDEとは別に、システムのスクラッチ開発で進められないか」というご相談もいただいています。現場に入り、お客様の課題、状況を深く理解できる立場を生かし、自ら実装することだけにこだわらない最善の選択肢を示していきたいと考えています。

    また、お客様への深い理解と同時に「外から入る第三者」としての価値を高めていくことも大切だと考えています。今後FDE事業を拡大していく中で、当社には流通業界の内外から多様な知見が集まってくると思うので、それらをアレンジして採り入れたり、標準化してシェアしたりといった取り組みにも力を入れていくつもりです。