暗中模索の74%から、勝ち組の6%へ。AI活用が、人の強みを加速する

    「AIツールのアカウントを全社員に配ったものの、それだけでは成果が出ない」。今まさに、多くの企業が直面する難題でしょう。

    大手コンサルファームの調査によれば、AI活用が「ツールを入れただけ」の段階に留まる企業は、全体の74%。全社の利益にインパクトのある水準(5%以上の増益効果)まで到達した例は、わずか6%に留まります。

    まだひと握りの“勝ち組”と、それ以外の違いは、社内人材が担うAI活用の「深度」にあります。先進的な企業においては、AI活用をフックに業務そのもの、さらに事業形態まで大胆に見直す「全社的な変革」(フェーズ4)が達成されています。

    今なお個人のチャット利用(フェーズ1)に終始している企業は、より実践的なAI活用にシフトを急ぐ時期といえます。一定の成果、たとえば定型業務の部分的な自動化(フェーズ2)などを達成した企業も、従業員全員のリテラシーを底上げし、主体的な活用を広げることで、さらなる伸びしろが期待できます。

    現在あなたの会社は、どのフェーズに位置しているでしょうか。メンバーの強みを、組織のパフォーマンスに転換するAI活用ができているでしょうか。

    「実業務に活用できるAI人材」の育成に取り組むオープン株式会社では、このほど社内AI研修「OPEN ACADEMY」を開催。本稿では、その模様をレポートします。

    「戦略的思考とAI実務の融合」を目指して

    今回の研修は「戦略的思考とAI実務の融合」を目的に、2026年6~7月に全12回実施。オープン株式会社の営業や人事など非エンジニア系職種を中心に、技術に明るいエンジニアなども含めた約30名が参加しました。

    講師を務めたのは、現在スタートアップで自らAI実装に取り組む小河 有史氏(株式会社To22 プリンシパルデータサイエンティスト)。IT大手の開発部門を率いた経験を持つ、データサイエンスの専門家です。

    参加者らは生成AIのプロンプト設計や、課題整理の方法論である「As Is/To Be」フレームワークを座学で確認後、ワークショップに移行。架空のクライアント企業に向けたAI活用提案を数人単位のチームで検討し、プレゼン用のスライドと、プレゼン中に操作を実演するモックアップツールを順番に作成しました。

    今回の架空クライアントは、

    • 主力のWebサービスで有料会員の解約率が悪化
    • 有料会員向けオプションの調査サービスは伸びている
    • 社内連携不足で見込客をつかみきれていない、
    • 上記の現況を示唆するファクトが、同社サイトやメディア記事などに散在する

    という設定。ワークショップでは、まずAIでそれらの情報を集約し、「As-Is」を把握するタスクに取り組みました。

    さらに、ワークショップ中盤では「社長からの電話メモ」として、

    • クライアントの想定予算と優先事項

    が突如明らかに。“後出し”の内容を踏まえて素早く方向を修正し、提案に反映させる訓練となりました。

    発表者も追いつかない!? AIがスライドを爆速生成

    「売上高の向上と社長は言うが、解約率改善と新規獲得をどう組み合わせるか」
    「ROI(費用対効果)は、どの数値を基準に出すか」

    プレゼンのスライドを仕上げ、発表に立つまでの制限時間は25分。各チームのメンバーはPCの画面をにらみながら、続々と浮上する論点について活発に意見を交わしました。

    会場を見回り、アドバイスを添えていた小河氏は「テキストチャットで壁打ちだけでなく、PowerPoint形式のファイルも、実際に動くプロトタイプも、AIに指示すればすぐ作れる。本当にいい時代になりました」とコメント。実際、知らされたばかりの情報を反映し、説得力のあるスライドを30分未満で仕上げるのは、人間だけの力では相当ハードルが高かったでしょう。

    AIの圧倒的能力を見せつけるように、ほぼ全てのチームは時間内にスライドを完成。出揃った提案は、施策の詳細で違いがあるものの大枠は共通し、

    1. 社内に分散したデータ(Webサービスのログ、基幹システムなど)を統合
    2. 優先対応すべき既存顧客を「解約予兆スコア」で知らせる
    3. 好調な調査サービスの見込客や、有望な調査テーマ案を提示
    4. スコアリングの算出、見込客の抽出などにAIを採用する

    という、堅実な構成となりました。

    ただ、整った成果物が爆速で仕上がるがゆえの“落とし穴”も露わになりました。スライドの質に全振りし、ギリギリまでAIと壁打ちをしていたチームの発表者は、生成されたスライドに目を通す時間が不足気味に。投影されたスクリーンに視線を向けて「記載のとおりです」と語る場面もあり、会場からは「人が追いついていない!」と、共感混じりの笑いが起こりました。

    「人を支え、人に働きかける」のが人の役割

    スライド作成から1週間後、参加者らはさらに2時間かけて提案をブラッシュアップ。この内容に基づいてモックアップツールも作成し、翌週の最終報告会に臨みました。

    各チームメンバーが入力したプロンプトからAIが生成したモックアップは、いずれもWebブラウザ上でスムーズに動作。ダミーデータを読み込み表示するプルダウン選択項目など、実際のWebサービスに近い挙動を披露しました。

    高度なモックアップをAIが短時間で生成し、提案の大枠は全員ほぼ同じ。だとすると、人間ならではの強みはどこで生きるのでしょうか。

    最終報告会のプレゼンからは、興味深い示唆が得られました。「人を支援し、人に働きかける手法」には、提案者自身の経験・バックグラウンドを反映した違いが、かなり明白に出るようです。

    例えば、見込客に向けた営業担当者のアクションを支援する方法について、あるチームのエンジニア(RoboRobo事業部)は、「提案資料のAI生成」「提案結果のフィードバックによるスコアリング精度の向上」といった、自動化機能の充実を強調。同種のアプローチで、既に解約率改善の実績があることもアピールしました。

    一方、別チームのメンバー(デジタルマーケティング事業部)は「ツールの操作を負担に感じ、せっかくのソリューションが使われなければ無意味。『とにかく見にいけば有益な情報がある」と印象づけるため、画面構成はシンプルにし、営業の入力項目はゼロにした」と説明。導入にあたっては伴走支援を行い、機能拡張も現場社員の声を踏まえながら進めると提案しました。

    「人」にフォーカスしたAI活用への期待は、プレゼン結果に対する評価にも現れました。オープン株式会社 代表取締役執行役員社長の石井 岳之は、研修の締めくくりとして優秀者3名を発表。1位に選んだ佐々木 顕(RoboRobo事業部)の提案について、「逼迫した部門の余力を可視化し、専門職のリソースを捻出する自動化にも踏み込んだ。クライアントにとって、より深い課題解決が期待できる」と述べました。

    非エンジニアのスキル獲得に重きを置いたカリキュラムでありながら、AIを既に実務でフル活用している参加者からも、研修後の反応は上々でした。

    プリセールスとして客先に提示するプロトタイプをAI生成している齋藤 健太(デジタルマーケティング事業部)は「自己流の実践だったプロンプトエンジニアリングを今回体系的に学び直し、複雑な要件でも抜け漏れがなくなった。提案の精度とスピードをさらに上げ、ビジネスの成功確率を高めるAI活用ができれば」と話していました。

    Claudeパートナーとして活動開始。実践的な研修・運用の知見を提供

    今回の研修で、参加者らが使用したAIツールは、AIエージェント開発基盤「Claude Code」と、AIチャット「Claude」です。

    両製品の開発元であるAnthropic社は、ビジネス用途におけるAIの安全性・信頼性・拡張性を重視。コーディング領域を中心に、エンタープライズ市場で豊富な導入実績を誇ります。

    オープン株式会社はこのほど、Anthropicのパートナーシッププログラム「Claude Partner Network」の認定を獲得。今回のように、非エンジニア部門を巻き込んだAI活用スキルの向上は、エンジニアが現場に入り込んでAI実装を進めるFDE事業と「両輪」で、経営課題の解決に貢献するアプローチとして強化を進めています。

    リアルな業務の現場にAIを落とし込む実績を自社内外で重ねることにより、生きた知見を集約。再現性のある方法論がまとまり次第、研修・運用支援サービスとして順次提供していく計画です。今後の展開にご期待ください。